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(資料)「公開質問状への回答」の検討

 (資料)「公開質問状への回答」の検討


 WAN編集担当から出された「回答」が何に答え、何に答えていないのかを明らかにするため、以下、公開質問状の項目に即して、「回答」の内容を検討します。


1.トランスジェンダー差別について

 質問1では、トランスジェンダー排除を正当化するような記事や、トランスジェンダーに対する差別的な認識や表現を含む記事をWANのウェブサイトに掲載することは、WANの定款およびウェブサイトの編集方針に反すると考えられるため、この点に関するWANの現状認識を確認しています。編集担当から出された「回答」は、この質問に直接答えていませんが、「異論が出る可能性の高いエッセイであるとは思」ったと述べていることから、問題含みの内容であるとの認識はもっていたと受け取れます。しかし、編集担当は、石上エッセイのようなトランスジェンダーに対する差別言説をひとつの「主張」として是認するとともに、差別言説を拒絶することを「議論の封殺」ととらえています。


2.当該エッセイに対するWANの認識について

 質問1を受け、質問2では、WANが当該エッセイの差別性を十分に認識できていなかった可能性を確認しています。この点に関連し「回答」は、「投稿記事の内容について、WANが賛成・反対、支持・不支持などの態度を表明するものではない」と、直接的な回答を避けつつ、編集担当は当該エッセイを議論を深めようとする意図を持ったもの」と判断し、掲載を「契機に(中略)『自由でオープンな議論』が生じることに期待」したと説明しています。

 一般的に、特定の人々(トランス女性)の存在・尊厳・人権を「認めるか認めないか」を議論することは、それ自体差別的で、人権に反すると考えられています。今回のWANの判断は、そのような意味での「議論」の場を、自身のプラットフォーム上に積極的に提供することにつながります。これは、すでに起きている差別と人権侵害を正当化する目論見に加担する道を開いたという点で非常に悪質かつ危険な判断です。


3.経緯について

 質問3では、当該エッセイが掲載された経緯を尋ねています。この点に関連し、「回答」は、「WANサイトの投稿記事の採用については(中略)編集担当が裁量権を持っており、これまでもこれからも理事長および理事会が関与するものではない」と説明しています。したがって、当該エッセイの掲載可否は、2で記したように、これを議論を深めようとする意図を持ったもの」と判断し、「『自由でオープンな議論』が生じることに期待」した編集担当によって決定されたということが判明しました。


4.当該エッセイ著者とWANのやり取りの有無について

 さらに、質問4では、当該エッセイの執筆者名「石上卯乃」がペンネームである可能性が高いことを鑑み、WAN側が本人確認を適切に行った上で掲載を決定したのかを確認しています。この点に関連し、「回答」では、2020年7月末に石上氏の投稿を受けた後、石上氏と編集担当の間でメールのやりとりを行ったこと、また、WANサイトでは「ペンネームで記事を掲載すること」が認められていることが述べられています。しかし、掲載にあたって本人確認が適切に行われたのかどうかという肝心な点については、明確に回答していません。


5.当該エッセイの掲載判断について

 質問5では、誰がどのような基準にもとづいて当該エッセイの掲載を判断したのか、内部で反対意見等が出なかったのかを確認しています。すでに3で記したように、「回答」では、当該エッセイの掲載は編集担当によって決定されたものであり、理事長および理事会は関与していないと述べられています。しかし、掲載の判断が編集担当一人の独断によるものなのか、それとも複数人の合意にもとづくものなのか等、詳しいことは一切明らかにされていません。


6.石上氏がWANを通して今後行うかもしれない「議論の試み」への対応について

 質問6では、今後石上氏からエッセイ等の掲載依頼があった場合、その文章を掲載するつもりなのかを確認しています。この点に関して「回答」は応答することを避けています。しかし、編集担当はフェミニストを名乗る人々がトランスフォビアの表明をおこなうことで「自由でオープンな議論」がかたちづくられると考えているようなので、今後も同様の文書の掲載依頼を承諾する可能性は高く、警戒すべきと考えられます。


7.トランスジェンダー差別的な文書の掲載依頼が来た場合の対応について

 質問7では、今後石上氏以外の人物からトランスジェンダー差別的な文章の掲載依頼があった場合のWANとしての対応と、掲載可否の判断基準を確認しています。質問6同様、この点に関しても「回答」は応答することを避けており、この問題の深刻さを編集担当が理解していないことを示しています。このような形で、今後も掲載する可能性を残してしまうことは、トランス女性の存在・尊厳・人権をより一層不安定化させる点で、大変危険です。


8.投稿者への対応について

 質問8では、もし石上氏がNPO法人WANの会員である場合、定款に照らして除名等の処分の対象になることもありうるのか、その可能性を確認しています。「回答」は、この点に関し明確な答えを提示しないばかりか、「石上氏がNPO法人WANの会員であるかについては、個人情報でありお答えすることは控えます」と、質問の意図をふまえない応答をすることで、自身の責任を回避しています。


9.当該エッセイへの対応について

 質問9では、WANが組織として、当該エッセイに何らかの対応する予定があるのかを確認しています。今回の「回答」は、あくまでも編集担当から出されたものであるため、その内容がNPO法人WANの「組織としての」見解を反映するものと理解してよいのか、現時点では不明です。しかし、公開質問状に対し理事会からはこの間何らの応答もないため、理事会は組織としての対応を放棄したものと考えます。


10.トランスジェンダーに対する差別やトランスジェンダー排除的なフェミニズムへの対応方針について

 質問10では、トランスジェンダーに対する差別やトランスジェンダー排除的なフェミニズムに対する、WANの組織としての方針や見解を確認しています。すでに質問9で述べたように、この間、理事会からは何らの応答もありません。この事実からは、WANという組織がトランスジェンダー差別・排除に問題意識を持っておらず、自分たちがトランスジェンダー差別に加担したことの責任を取る気がないことがわかります。


 以上からわかるように、WAN編集担当による「回答」は、わたしたちの質問のほとんどを無視し、恣意的に論点をすりかえたうえでおこなわれたものでした。石上エッセイの掲載およびこの「回答」もふくめた掲載後の対応を見るに、WANは、差別や人の尊厳・人権といった社会的にも、フェミニズムにとっても重要な課題に対し、組織として何らの対応もできないようです。


 わたしたちは、フェミニズムを掲げるポータルサイトであるWANが、トランスジェンダー差別に対する認識を問われても無視し、トランスジェンダー差別を許してはならないものとする姿勢をまったく示さなかったことに強く抗議します。









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