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【日本共産党への問い合わせ】笙野頼子氏による記事「共産党の見解」を受けて

わたしたちフェミニズム×トランスライツ勉強会は10月25日に、笙野頼子氏による「共産党の見解」という記事( https://femalelibjp.org/nf/2020/10/18/共産党の見解/  )に関して、日本共産党と日本共産党ジェンダー平等委員会へ問い合わせのメールを送信いたしました。以下はその内容についてのご報告です。


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日本共産党御中

日本共産党ジェンダー平等委員会御中



 こんにちは。フェミニズム×トランスライツ勉強会と申します。わたしたちは、現実に起こっている深刻なトランスジェンダー当事者に対する人権侵害をフェミニズムの問題でもあるととらえ、それらに抵抗するために集まった有志フェミニストのグループです。今年2月末の結成以降は、定期的な内部勉強会やイベントの開催などを行ってきました。本日は、「Female Liberation Japan」というサイトに掲載されている「共産党の見解」という記事( https://femalelibjp.org/nf/2020/10/18/共産党の見解/  )に対する反響を受け、その内容に関していくつか気になる点があり、ご連絡いたしました。


 この記事は、前述のサイトに、作家の笙野頼子氏により投稿されたものです。この記事では、笙野氏が日本共産党ジェンダー平等委員会(以下、委員会)に質問し、それに対してどのような返事が来たかをごく短い引用とともに報告しています。しかし、笙野氏の質問の内容や委員会の返事の全文、ならびに詳細な経緯が公開されていないため、全体的に曖昧で信頼性に欠ける内容となっています。

 

 ここではまず、笙野氏が日本共産党及び委員会のトランスジェンダーやトランスジェンダー差別に関する認識についてどのように記述しているかを、あくまでも現在判明している範囲で検討します。そしてその後に、日本共産党及び委員会の認識が、笙野氏の記述と相違ないのか等について質問させていただきます。



1.笙野氏の記述を検証


 前提として確認しておきたいのですが、2018年にお茶の水女子大学でジェンダーアイデンティティが女性である学生の受け入れが表明されたのち、 SNS上などではトランスジェンダーに対する深刻な中傷が起き、現在まで続いています。*1


 そして、笙野氏はトランスジェンダーに関して差別的な認識を持っている人物です。これは、記事末文の「脅されても声を上げる不当糾弾の被害者としてIstandwithJKR」という立場表明から明らかです。笙野氏は自らを「不当糾弾の被害者」と捉えていますが、ここからは笙野氏がトランスジェンダー差別に対する批判を、不当な攻撃と認識していることがわかります。


 「JKR」はイギリス人作家J・K・ローリング氏のことです。彼女はミスジェンダリング(トランスジェンダー当事者に対して誤った性別を割り当てること)を煽動し*2、トランスジェンダーの人々がホルモン治療などのジェンダー医療を受けることに反対*3しています。


 笙野氏によれば、 「『terf』『差別者』と一概に決めつけて『糾弾する』やり方に共産党はけして『与しない』」そうです。「TERF(ターフ)」は“Trans Exclusionary Radical Feminist”の頭文字をとったもので、ジェンダーアイデンティティを否定し、トランスジェンダー差別を肯定しているフェミニストたちの総称です。


 笙野氏が発表したコメントからは、委員会がトランスジェンダー差別を行う人々への批判を不当なものと捉えていることや、トランスジェンダー排除的な人々を被害者として認識していることが伺えます。こうした逆転のイメージ操作は、在日朝鮮人がありもしない特権を握っているかのように主張する「在日特権」言説や、電車内の性暴力を一時的に回避するために設けられた女性専用車を「男性差別」とする言説と似通っています。現在の社会にあるマイノリティへの差別を無視し、マジョリティが差別の被害者であるかのように見せる典型的な言葉のトリックです。


 また、「『議論する』ことも『侵入派』を怖がることも共産党の判断において差別では」ないとの記述もされています。「侵入派」という言葉は、過去から現在まで、地域社会の一員として生活してきたトランスジェンダー当事者の生活実態を踏まえておらず、いままでに存在しなかった新たな脅威であるかのようなイメージを作りあげています。笙野氏の質問内容が不明なため断言はできません。しかし、トランスジェンダー当事者が生活するうえで欠かせない基本的人権を、当事者ではない人たちが「保障するべきか/しないべきか」と議論の俎上にあげることは、当事者の人権保障およびジェンダー平等の取り組みにおいて、適切な意思決定過程とは言えません。誰の人権を保障するか/しないかを議論すること自体が、差別的取り扱いではないでしょうか。日本共産党は、その綱領の〔憲法と民主主義の分野で〕の6項末尾において「性的指向と性自認を理由とする差別をなくす」と表記していますが、この認識は綱領に反するものではないでしょうか。



2.共産党の見解について


 前項の検討は、笙野氏によって部分的に引用された「見解」から分かっていることのみへの検証です。したがって、あくまでも推測の域を出ません。委員会の見解やそれに至る過程を正確に把握することは現在の状態では困難です。そのため、笙野氏の質問やそれに対する委員会からの見解の全文の公開を求めます。


 当該の記事は共産党の公式見解を明らかにするという趣旨で書かれていたため、実際に記事の内容を共産党の公式見解として受け取った人々もいるようでした。たとえば、「Female Liberation Japan」のサイト上には、当該記事が共産党の公式見解をあらわすものだという前提のもとで書かれたコメントが散見されます。詳しくは当該記事のコメントの箇所をご参照ください。なお、これらのコメントは、笙野氏の差別的な見解に賛意を示しています。


 笙野氏の質問やそれに対する委員会からの見解の全文の公開をもとに今一度、日本共産党及びジェンダー平等委員会の、トランスジェンダーの差別の実態、そしてそれを解消する取り組みについての認識をお聞かせください。2019年、トランスジェンダー女性であることを公表して新宿区議に当選された高月まなさんも所属する共産党で、トランスジェンダーに対する差別が肯定されることがあったのか、ぜひ知りたいと思っています。


 また10月18日には、「ゆな」さんというトランスジェンダー当事者の方も該当の記事に関するお問い合わせ*4を送付されていました。ゆなさんの指摘は、トランスジェンダー差別をめぐる問題を整理し、トランスジェンダー差別に関する切実な懸念を示すものでした。委員会及び日本共産党がゆなさんの指摘を真摯に受け止め、お問い合せ内の4つの質問に回答していただくよう、心よりお願い申し上げます。


 なお、わたしたちの問い合わせ内容はインターネット上で全文公開いたします。問い合わせに対するご回答があったかどうかや、ご回答があった場合はその内容についても全文を公表させていただく予定です。ご回答をお待ちしております。



フェミニズム×トランスライツ勉強会




参考資料

*1:https://transinclusivefeminism.wordpress.com/2020/09/04/hori2019b/

*2:https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2020/6/9.html

*3:https://front-row.jp/_ct/17374685 

*4:https://snartasa.hatenablog.com/entry/2020/10/19/133210

笙野頼子「共産党の見解」

https://femalelibjp.org/nf/2020/10/18/%e5%85%b1%e7%94%a3%e5%85%9a%e3%81%ae%e8%a6%8b%e8%a7%a3/




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