公開質問状
ウィメンズ・アクション・ネットワーク様
わたしたちは、「ふぇみ・ゼミ×トランスライツ勉強会」です。「ジェンダーと多様性をつなぐフェミニズム自主ゼミナール~ふぇみ・ゼミ」に参加しているゼミ生と、複数の運営メンバーが参加する有志グループで(ふぇみ・ゼミからは独立した団体です)、20代を中心としたメンバーで活動しています。活動の目的は、フェミニズムにおけるトランスジェンダー(特にトランスジェンダー女性)差別・排除に、フェミニストとして抵抗することです。
今回は、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(以下、WAN)掲載の石上卯乃氏によるエッセイ「トランス女性を排除しているわけではない」について、公開質問状を送らせていただきます。
石上氏による当該エッセイは、トランスジェンダーへの差別をフェミニズムの語彙を用いて正当化し、誤った印象操作をするものです。生理などの身体的特徴によって性別が決まるのだと主張して、ミスジェンダリング(誤った性別割り当て)を煽動するとともに、トランスジェンダー排除言説への批判を攻撃と読み替えたり、トランスジェンダー排除派フェミニストを被害者として逆転させたりなどのイメージ操作を行っています。
わたしたちが衝撃を受けたのはエッセイの内容ではなく、このエッセイがWANというフェミニズムを掲げる団体のサイトに「トランスジェンダー」というタグ付きで掲載されたことでした。WANが2000年代のジェンダー・バックラッシュに抵抗するためにつくられ、研究者やジャーナリスト以外の人にも言論のプラットフォームを提供されてきたことは存じあげています。くわえて、そういった場がフェミニズムの中に権威をつくらないため、また、声の通りにくい人たちを脱周縁化するために必要だとも感じています。しかし、今回のような差別言説が掲載されてしまうことは明確に問題です。
WANには、トランスジェンダーの人たちを取り巻く問題の深刻さを認識し、注意や関心を持っていただきたいです。石上氏のエッセイは、「トランス女性を排除しているわけではない」と言いながら、トランスジェンダー(特にトランス女性)の人権と、シスジェンダー女性が性暴力の被害にあわず「安全」にスペース利用をおこなうことが、対立しているという前提で論を展開したものでした。もし同じロジックを用い、女性の人権を保障することで男性が脅かされると書かれたエッセイがあったなら、WANの方々も差別的だと判断されるのではないでしょうか。
わたしたちはWANを差別的な記事が掲載されることのないプラットフォームにしていただきたいと思っています。そのためにも、当該エッセイの掲載に至るまでの経緯のご説明および、WANのご見解を伺いたいと思います。後述の10個の質問にお答えいただくようお願いいたします。
1.トランスジェンダー差別について
NPO法人WANの定款に記されている活動目的の中には、第2章第4条(1)「人権の擁護又は平和の推進を図る活動」とあります。また同法人が運営するサイトWANはウェブサイト上に「信頼性の高い記事・情報を掲載します。盗作、名誉毀損、人権侵害、差別的な記述、品格を欠く記述や、商用だけを目的とする記事は、掲載しません。」という編集方針を明記しています(https://wan.or.jp/article/show/13)。これらの方針から言ってトランスジェンダー排除を正当化するような記事や、トランスジェンダーに対する差別的な認識や表現を含む記事は掲載してならないと判断できますが、この点についてどのように認識しておられるのでしょうか。
2.当該エッセイに対するWANの認識について
石上氏のエッセイは、トランスジェンダー排除言説がなぜ批判されてきたのかという背景や、トランスジェンダーの生活実態を無視して書かれています。そのうえでミスジェンダリング(誤った性別割り当て)を煽動し、また、トランス女性の人権と、シス女性が性暴力の被害にあわないことが対立するかのような前提で論を展開しています。WANは、当該エッセイの差別性を認識しておられるのでしょうか。
3.経緯について
このエッセイはWANから石上氏に依頼されたうえで執筆されたものですか。それとも、石上卯乃名義で一般投稿されたものですか。WANが、かかる原稿を公開するまでにどのような経緯があったのか、教えてください。
4.当該エッセイ著者とWANのやり取りの有無について
当該エッセイは、「私」と「私たち」という一人称が混在し、一人の著者なのか複数人で書いたのかがわからない構成になっています。また、「石上卯乃」という名前の漫画のキャラクターがすでに存在していることから、「石上卯乃」という投稿名はペンネームである可能性が高いと思われます。「石上卯乃」名義での当該エッセイ掲載にあたって、WANは著者の方とメールや電話等で直接のやり取りをされたのでしょうか。それとも書き手不明の状態で投稿を掲載されたということなのでしょうか。
5.当該エッセイの掲載判断について
当該エッセイの掲載判断は誰がどのように行ったのでしょうか。また、それはWANの総意なのでしょうか。もし掲載をする段階で、WANの中で反対意見や異論があったのなら、それでも掲載に踏み切った理由を教えてください。
6.石上氏がWANを通して今後行うかもしれない「議論の試み」への対応について
石上氏はエッセイの末尾において「いくつかのオープンな議論の試みを行いたいと思います。」と表明しています。この文章が、WANに「議題」となるような差別的なエッセイを投稿して「議論」をあおるということを意味するのかは判然としません。そもそも、トランス女性はシス女性の「安全」なスペース利用を脅かす存在である、という差別的な前提をもとに「議論」をおこなうこと自体が、トランス女性への差別を煽る行為だということは言うまでもありません。そのうえで、もし今後も石上氏から掲載依頼があった場合、WANはその文章を掲載されるのか、教えてください。
7.トランスジェンダー差別的な文書の掲載依頼が来た場合の対応について
今後石上氏以外の人物からトランスジェンダー差別的な文章を掲載してほしいと依頼があった場合、WANはどのように対応されますか。掲載可否の判断基準をお示しください。
8.投稿者への対応について
石上氏はNPO法人WANの会員なのでしょうか。もし石上氏が会員であるならば、NPOの定款の第3章第11条2(https://wan.or.jp/article/show/295)に照らして差別的な行為によって法人の名誉を傷つけたとして、除名などの処分の対象になるかと思うのですが、そのような対応をされる予定はありますか。
9.当該エッセイへの対応について
役員として参加されている個人としてではなくWANという団体として、今後当該エッセイに対して何か対応されるつもりはありますか。
(たとえば、削除、トランスジェンダー差別的なエッセイを掲載してしまったことに関する声明の発表など)
10.トランスジェンダーに対する差別やトランスジェンダー排除的なフェミニズムへの対応方針について
WANは、今後トランスジェンダーに対する差別やトランスジェンダー排除的なフェミニズムに対してどのように対応されますか。組織としての方針、見解をお示しください。
なお、ご回答の有無を問わず、公開質問状を送付したことについて、経緯も含めて、インターネット上で公表させていただく予定です。また、いただいた回答についても公表させていただきます。
まことに勝手ながら回答期限は8月31日とさせていただきます。ご回答をお待ちしております。
ふぇみ・ゼミ×トランスライツ勉強会